リノベーションスクール事前講演会レポート@まちなか 〜街の文化を読み解く、街の文脈を引き継ぐ、そして新たな価値をつくる〜
2024年10月20日 7:54am
10月15日(火)平日の夜、熱海の中心市街地に位置する中央町(友楽町)の会場にて、リノベーションスクール事前講演会@まちなかが開催されました。
始めに、市来より、今回のリノベーションスクールでこの周辺に着目する経緯をお話ししました。今回のリノベーションスクールで対象物件とする建物は、かつて昭和33年まで赤線地帯として、女性を求める遊客で賑わっていたというエリアの真ん中に建っています。
リノベーションまちづくりとは、今まであるものや文脈を大事にしながら、新しい人を呼び込んだり、新しい使い方を考えたりしていくこと。machimoriが、そのように熱海銀座などを舞台に取り組んできたことを順を追って伝えていただきました。
ゲスト講演
今回のゲストおよびリノベーションスクールではユニットマスターとしてチームに伴走してくださる後藤大輝さん。戦前の木造長屋が密集する墨田区向島にて15年ほど、建物と人を繋げる活動をされる中で、2020年以降は毎年秋に芸術祭「すみだ向島EXPO」を開催しその取り組みが注目されている方です。
後藤さんが最近考える文化とは、「3世代続くような感覚の共有」。そうした時に、どうやってこれからの文化をつくっていこうかということを見つけたくて、日々取り組んでいるそうです。
向島には、戦後は渋谷より先にできたスクランブル交差点があって、人口密度がアジア1位とも言われた時代があります。そんなエリアで、「東京で一番危険なエリア」という統計の結果が出たことにより、既に、40年前にまちづくり協議会が発足。
1998年には2週間ほどの期間で、「向島国際デザインワークショップ」という新しい取り組みが始まりました。文化創造のまちづくりとして、アーティストや外国人留学生・クリエイター・デザイナーがまちに入ってくる転換点となりました。
さらに、2008年あたりから、一過性のイベントはなく、アーティスト・クリエイターが住人化していき、その頃後藤さんも谷中から向島へ拠点を移しました。新住人による地元づくりが始まったのです。
不動産も建築も法律も専門外の後藤さんですが、この約15年間で、エリア内に40〜50軒の顔の見える関係の建物ができました。一方で、失っていくものも多く、危機感があると言います。「エリア人口5万人、墨田区は25万人。町会という単位でも6,000人いるのに僕らは200人。」まだまだマイノリティであり、どうやってこれからの文化を提案できるんだろうという状態ではあるものの、次々建てられていく画一的な新築にも影響を与えたいということで、一昨年は、新築でも長屋を立てるという動きもされたそう。
向島エリアは、後藤さんにとって、地域の文化やふるさととしての人間関係を実感を得た初めての地域。開発業者や大手の不動産ディベロッパーに見つかってしまう時に、ネットワークと仲間を見える化していこうというのが、「向島博覧会」の流れも引き継いだ「すみだ向島EXPO」でした。
EXPOの中で、さらに物件活用のスピードは加速、新住民に祭りにも当たり前に参加してもらうなど、地域との関わりも深まりました。祭りの内部に関わってみると慣習の中の負の連鎖のようなものも見えてきました。
「アンチテーゼしたいと思った本来の目的を表現して伝えるのって難しい。」でも、確実にここでしかできない表現をしたいと集まる協力者とそのコンテンツは増え続けています。
EXPOに3年前から出展されているインスタレーション『夕刻のヴァイオリン弾き』が、同時間同場所で繰り返され日常化していったことから、後に続く人が生まれ、小さな良い連鎖ができたという実績が生まれました。
このように、このコンテンツの集合が「文化」になっていくために、改めてビジョンの重要性も感じるという後藤さん。最後に、台湾の高雄市にて「負の連鎖を断ち切る、負の歴史は事実として継承していく」というエリアリノベーションのビジョンに心打たれたというエピソードをシェアしていただきました。
トークセッション
<高須賀哲さん(バーコマド)>
高須賀さんは、生まれ育った地域に元売春街や元遊郭という場所があったこと、20代の頃はそれらが建て壊される時代の流れを止められない無力感を感じていたそう。それから時は経ち、熱海にて30年以上空き家だった物件に出会い、「バーコマド」を開店。6割が地元の人と、バーとして楽しんでもらっているほか、写真展やアートイベントの会場として活用されています。また、今後は営業日を増やしたり、2階を書店にするなど、更なる有効活用の方法を探っているそうです。
<渡辺豪さん(カストリ書房)>
渡辺さんは、2010年から10年ほどで500箇所もの遊郭物件を巡る途中で、遊郭関係の本を専門に出版する出版社を始めました。2016年には、吉原(台東区)にて書店「カストリ書房」をオープン。全国に遊郭だった場所を使ってまちづくりをする動きはあるが、負の連鎖を繰り返してしまったり、歴史を上書きしてしまったり、難しい現状を目の当たりにしているそう。いい面だけに目を向けてしまうと、飽きられてしまい、それがまちの魅力には繋がらないのではないか。負の歴史だとしても、個人の残酷もしくは絢爛な歴史としてではなく、構造的に普遍的に捉えることがヒントなのではないかと考えているそうです。
<紅子さん(色街写真家・元ソープ嬢)>
20年ほど前までソープ嬢として地道に働かれていた紅子さん。遊郭・赤線という歴史を経て、今の仕事があるということを知り、その歴史を写真家として残し伝える活動を始めました。今回リノベーションスクールの題材となる物件「つたや」などの写真を映しながら、通気口・天井・浴室・建具などを解説してくださいました。負の遺産は、目に触れず置き去りにされてきたものだからこそ、価値がある。今、多くの女性が遊郭に目を向けている。売春街で生き抜いた女性たちに憧れを持っているという面もあるのではと感じています。
※各ゲストのプロフィールはこちらのページをご覧ください
https://renovation-atami.net/2024/09/26/jizenkoen_machinamka/
「つたや」は観光の歴史を語る上で欠かせない存在。いろいろな偶然が重なって、運よく残っている建物を今後どう引き継いでいくのか?渡辺さんは、具体的な使い方に落とし込む際に「負のものほど再現されやすい」点が手がかりになるのではと考えているそうです。例えば、コロナ禍において性風俗に従事する人の差別が当たり前にまかり通ってしまった事実があります。今、日本経済が衰退していく中で女性の活躍が求められる時代でもある時に、一つの場を通して、まだまだ残る社会の課題を考えられる、そんな存在価値もあるのではと。
紅子さんも「遊郭の歴史の中には、そこで生きた女性の物語がある。現代においても、そこに新たな価値観を見出し定義していくことは、人生観をも変えることなのでは?」と、同じように感じているそうです。
最近、女性が遊郭文化や性風俗で働く人に関心を寄せているという現象。それは、現代を生きるヒントが、公になっていない歴史の中に隠されているのではないか?という期待感が大元にあるのかもしません。
「つたや」の建物が一軒変わることで、さらに有象無象の小さな動きが重なり合って、周辺エリアの風景の今後にもきっと影響を及ぼすのだろうと、そんな未来が見えてくる講演会でした。
リノベーションスクールの「まちなかユニット」では、11月24日、12月7日、12月8日の3日間とその期間の中で、実際にチームで「つたや」を活用する計画をたて事業化することを目指します。
受講生のエントリーは10月20日いっぱい受付中です。ご興味のある方は、下記のリンクから詳細をご覧ください。